「有酸素運動をすると筋肉が落ちる」という話を聞いたことがあるかもしれません。特に「ランニングばかりしていると筋肉が減る」「体重を落とすためにたくさん走ったら“痩せこけた”体になった」というような経験ありますか?
しかし、果たしてこれは“有酸素運動そのもの”が筋肉を減らす原因なのでしょうか?それとも、条件(量・強度・栄養・他の運動の有無)が関わっているのでしょうか?
有酸素運動が“筋肉を落とす”という誤解の背景
まず、なぜこのような誤解が生まれるのか?
・有酸素運動(例:ジョギング・サイクリング・エリプティカルマシン)では、継続的にエネルギーを消費し、体脂肪の減少につながりやすい。
・体重が減る(特にダイエット目的)際、筋肉(除脂肪体重=Lean Body Mass)も一緒に減りやすい。例えば、食事制限のみで減量した場合、筋肉量の低下が報告されています。
・そのため「体が細くなった」「筋が落ちた感じがする」=「有酸素運動のせい」と捉えられがちです。
さらに、フィットネス業界やSNSなどで「カーディオ=筋肉が落ちる」といった断片的なメッセージが出回ることも、誤解を助長しています。たとえば “Does Cardio Burn Muscle? Yes, Here’s How” といった記事では、「条件次第では筋肉が減る可能性がある」と記されています。
科学的に見る「有酸素運動」を行ったときの筋肉量・筋力への影響
では、実際に最新の研究ではどのような結果が出ているのか、ポイントを整理します。
✅ 有酸素運動でも筋肉量が維持・むしろ増えるという研究もある
・研究レビュー「Skeletal Muscle Hypertrophy after Aerobic Exercise Training」では、「長期間の有酸素運動トレーニングでも、筋タンパク質合成が促され、筋線維・全筋肉サイズの増加(すなわち筋肥大)が確認された」と報告されています。
・また、「長期の有酸素運動は加齢に伴う筋力低下・筋量低下を抑制する可能性がある」という研究報告もあります。
このことから、「有酸素運動=必ず筋肉が落ちる」というのは必ずしも正しくなく、「適切に行えば筋肉を維持・改善する手段になりうる」ということが示唆されます。
⚠️ ただし“筋肉が落ちる/維持できない”条件もある
一方で、以下のような条件が重なったときには、筋肉量・除脂肪体重(リーンマス)が減る可能性があります。
・食事制限(カロリー制限)による減量のみ/運動量が少ない状態での減量では、筋肉量が減る傾向があります。たとえば、カロリー制限によって7%程度体重が減った時、除脂肪体重も減少という報告があります。
・有酸素運動を行っているが、筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)がほとんど入っていない、または筋肉に十分な刺激が入っていない場合。
・有酸素運動の量・強度が非常に高く、回復・栄養・休息が不十分な場合。たとえば「高頻度・高時間の持久運動+栄養不足+筋トレなし」のようなシナリオでは、筋たんぱく質分解が進む可能性があります。
・同一セッションで「まずカーディオ→続けて筋トレ」を行い、カーディオで筋疲労が残っているまま筋トレに移ると、筋トレ効果・筋肥大効果が減少したという報告もあります。
🔍 要点整理
・有酸素運動自体が「筋肉を自動的に落とす」わけではない。むしろ、条件が整えば筋肉量・筋力維持・さらには増加にもつながる。
・しかし、減量目的/食事制限あり/筋トレなし/過度の有酸素という組み合わせだと、筋肉量低下のリスクは高まる。
・パーソナルとしては「有酸素運動を行う場合でも、筋力トレーニング・栄養・回復をセットに考える」ことが重要。
1. 目的に応じた有酸素運動の位置付け
・体脂肪を落としたい/体重を減らしたい
有酸素運動は有効な手段です。例えば「週150分以上の中強度有酸素」がメタ分析で体脂肪・ウエスト周囲径を有意に減らすことが確認されています。
・筋肉量を維持・増加させたい
この場合、有酸素運動だけでは不十分なことが多く、レジスタンス(筋力)トレーニングを並行して行うことが推奨されます。
2. 筋力トレーニングを併用する
・有酸素運動をプログラムに入れるなら、週2〜3回程度、筋力トレーニング(主な大筋群・複数セット)を組み込むようにします。
・「有酸素+筋トレ」の組み合わせでも筋肥大・筋力の向上が阻害されないという報告があります。
・有酸素運動と筋トレを同じ日・同じセッションで行う場合には、どちらを先にするか・インターバルをどれだけ取るか・疲労管理をどうするかといった設計が重要です。たとえば、カーディオ直後で筋トレを行うと筋トレの負荷に影響が出る可能性があります。
3. 栄養・回復の確保
・筋肉を維持・増加させるには、十分なタンパク質摂取が不可欠です。年齢やトレーニング量によって必要量が変わるため、クライアントと個別に摂取量を確認します(例えば体重あたり1.2〜2.0g/日を目安にという報告もあります)。
・有酸素運動によるエネルギー消費が増えている場合、カロリー不足にならないように配慮することが重要です。カロリー制限+有酸素運動での減量では、リーンマス(筋肉など除脂肪体重)が落ちてしまう可能性があります。
・適切な休息(睡眠・回復日)を設け、オーバートレーニングにならないように設計します。
4. 有酸素運動の“量・強度”の調整
・過度に長時間・高頻度の有酸素運動は、筋たんぱく質分解を促進する環境を作る可能性があります。例えば超持久系スポーツ選手では筋量を維持・増加させるためにかなり入念な設計がされているのが現実です。
・指導現場では、クライアントの目的・体力・回復力に応じて「1回あたり30〜60分」「週2〜4回」といったバランスで設置することが多いです。250分/週を超えるような場合には、筋トレ・栄養・回復のフォローがより重要になります。
・また、有酸素運動にも「低〜中強度長時間」「高強度インターバル(HIIT)」「中強度定常」など種別がありますが、筋肉量維持・増加を狙うなら中〜高強度の方が刺激が入りやすいという報告もあります。
5. 言葉がけ・不安緩和
・「有酸素運動を入れたら筋肉が落ちるのでは?」という質問にはまず、「条件次第で筋肉は守れます。大切なのは“筋トレ・栄養・休息”もセットで整えることです」と説明しましょう。
・実際、研究では「有酸素運動+筋トレ」という組み合わせでも筋肥大・筋力向上が可能という報告があります。
・“有酸素を完全に排除する”必要はなく、むしろ心肺機能・持久力・代謝改善などたくさんのメリットがあります。誤解を正して、「目的に応じてどう有酸素を入れるか」をクライアントと一緒に設計するのがプロの役割です。
結論として、「有酸素運動をすれば必ず筋肉が落ちる」というのは誤った単純化です。
筋肉量を維持・増加させながら有酸素運動を行うためには、筋力トレーニング・適切な栄養・休息が重要な条件になります。
パーソナルトレーナーとしては、クライアントの目的・体力・回復力・食習慣を把握し、有酸素と筋トレ、栄養・回復のバランスを設計・説明することが求められます。
「走ると筋肉が落ちるかも」という不安を持っているクライアントには、「実際には筋肉を守る・育てるための有酸素運動の取り入れ方がありますよ」というメッセージを伝えましょう。
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